芭蕉 一つぬひで後に負ぬ衣がへ 5月1日(旧暦 三月十二日)月曜日

一つぬひ(い)で後(うしろ)に負ぬ衣がへ 芭蕉

「笈の小文」に「衣替」と前書して、昨日三月晦日の「行春に」の句の次に置かれていますので、芭蕉は、貞享五年四月朔日(1688年5月1日すなわち335年前の今日)に詠んだ句として、残していることになります。しかし掲句のあとに「吉野出て布子売たし衣がへ 万菊」とあり、芭蕉一行は吉野から高野山に詣でた後に和歌の浦に来たのですから、この句の「吉野出て」には少し違和感が残ります。衣替えは通常4月1日と10月1日ですが、神事では立夏、立冬に行われることが多いようです。貞享四年の立夏は三月二十四日でした。芭蕉と万菊丸はもしかして吉野山を下りて高野に向かう道中、陽気が良くて着物を一枚脱いだとき、昨年の立夏の日にちの記憶も手伝って一足早い「衣替」と洒落こんだのかもしれません。なお、これらの句は、翌年元禄二年春出版された「阿羅野」にいずれも収録されていますから、「笈の小文」の旅の折に詠んだことは間違いない*と思われます。

*「行春に」の句は「笈の小文」にしか収録されておらず吟詠は執筆時であった可能性があり、そのあとに「一つぬひで」を配置して行程と季節の移り変りとを調整、文を整えたのかもしれません。

chatGPT斎 今日の一句  夏衣(なつぎぬ)に 着替えて庭に 立ってみる

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