其角 あまざかる非人貴し麻蓬 6月16日(旧暦 四月二十八日)金曜日 梅子黄(うめのみきなり)
あまざかる非人貴し麻蓬(あさよもぎ) 其角
「十日 三蔵といひけるかたいのもの、つづれたる袋より俳諧の歌仙取出して、点願はしきよしを申てしざりぬ。其巻の前書に、こゝにいやしき土の車の林の陰に身をかなしめる有と書り。いかなるものゝなれるはてにか有けん、かの巻の奥書に申つかはしける」とあります。元禄三年五月十日(1690年6月16日)のことです。
「いやしき土の車の林の陰」とは、非人頭の車善吉の配下になってということでしょうか。「麻蓬」とは「麻中之蓬」のことで(荀子の「蓬生麻中、不扶而直(蓬モ麻中ニ生ズレバ、扶ケズシテ直シ」より)、其角は、天から遠い土の非人でも尊い人たちなので、たとえこじき(乞丐)のものであっても、おのずと正しくまっすぐな善人となると励ましています。けっして亡母追福一夏百句中だったからというわけではないでしょう。大名も非人、乞食も分け隔てない不羈なる其角であったと思いたいものです*。
*ひと月後の「花摘」六月十日の条に「雨露は有漏の恵みぞもとの花の雨 車輪下非人」の句があります。「麻よもぎといふ句を結縁に申しつかはしたれば、我母の追善とて此句送りける也。翁歳旦に、こもを着て誰人います花の春、と聞こえしも未来記なるべし。」と其角追記しています。この三蔵とのやり取りを記した其角の書簡(写)が残っています。元禄三年、猿蓑編集中の加生(凡兆)と去来宛のもので、その末尾に其角は「乞食の文二通のぼせ候て、御めに掛け申度候へども、是は我等文庫の重宝ニて候まゝ、折あるべく候。季吟ハ公方様の御点者、私ハ乞食の師となり候事、天地懸隔に候へども、此道の満足御さつし可被候。」と書いています。北村季吟は元禄二年十二月幕府歌学方として召され江戸に下っていました。(2023.6.21)
今日は、七十二候の「梅子黄」です。
Bing亭 今日の一句 麻に蓬と 言われてもなお 愛しき人


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